糖尿病のお話 -糖尿病と歯周病- 東洋医学研究所?グループ二葉はり治療院 院長 中村 弘典
2012-08-22 16:40
東洋医学研究所
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平成23年12月1日号

はじめに
 糖尿病は生活習慣病といわれるように、第一予防として生活習慣の改善が重要です。しかし、糖尿病は症状が現れずに進行することが多く、このことは糖尿病の特徴であり怖さでもあります。
 今回は、糖尿病のバイタルサイン(生命徴候)であるものの、症状が現れにくい歯周病について述べさせて頂きたいと思います。

1.歯周病は自覚症状がほとんど現われずに進行する
 歯周病は、歯の周囲の組織である土台の部分の病気です。歯そのものでなく、歯の外側をじわりじわりとむしばんでいきます。虫歯と違って痛みがないので、多くの方は歯周病があっても「たいしたことはない」と放置してしまいます。そして、土台を失った歯がぐらついて抜け落ちる寸前になり、初めて歯科医を受診するというケースが少なくありません。中高年になってから歯が抜ける原因の約半数は歯周病です。
 また、歯周病のことを高齢者の病気のように考えて、「自分はまだ大丈夫」と安心している若い方もいます。しかし実際には、20代ですでに約7割の人に歯周病が起きていることがわかっています。歯周病は、20年後、30年後に向けて、若いうちから少しずつ歯を抜くための準備を進めているのです。
 歯が少なくなると、しっかり噛めなくなるために、内臓によくない影響を及ぼしたり、食べることの楽しみが少なくなったり、はっきり発音できないために会話を楽しめなくなったりして、生活の質(QOL)が低下します。事実、「自分の歯が多く残っている人ほど病気が少なく、健康的に自立して暮らしている」といわれ、歯の数とからだの健康の相関関係が最近の調査でわかっています。

2.歯周病は生活習慣病
 糖尿病と歯周病は密接な関係にあり、無視できない病気です。
 糖尿病があると歯周病に悪影響を及ぼし、歯周病があると糖尿病に悪影響を及ぼします。もしも「しっかり糖尿病を治療しているのに血糖コントロールがなかなかよくならない」のなら、その原因は歯周病なのかもしれません。
 歯周病の発病には、遺伝的な関係もあることがわかっています。ただ、それ以上に生活習慣による影響がずっと強いのです。ある程度の遺伝的素因を背景とし、それに加齢や生活習慣による影響が加わって発病する病気のことを「生活習慣病」と呼んでいます。
 歯周病も生活習慣病の一つに数えられています。歯周病の原因となる生活習慣とは、喫煙、精神的ストレス、しっかりとしたはみがきができていない、食べ物の嗜好、歯ぎしりの癖、口呼吸(口を開いて呼吸すること)による口の乾燥などがあります。

3.歯周病には多くの合併症がある
 例えば糖尿病における網膜症や腎症・神経障害、高血圧における脳卒中、高脂血症における心臓病などがあげられます。
 最近の研究で、歯周病は心臓病や脳卒中、肺炎、胃潰瘍、肥満症など、さまざまな病気の起こりやすさと関係があることがわかりました。歯周病の原因菌が血液の中に入り込んで血管内で炎症を引き起こしたり、あるいは、食べ物をしっかり噛んだり飲み込んだりできなくなることの影響で、様々な病気が起きてきます。

4.歯周病は糖尿病とどのような関係にあるのか
 糖尿病の人が歯周病になりやすいことは、以前からよくいわれていたことですが、両者の相関関係を明確な数字とともに示すには大変な面がありました。それは、糖尿病といっても病状に大きな幅があることや、歯周病自体が罹患率の高い病気であるために、差を比較しにくいといった理由からです。
 しかし、これまでの調査研究から以下のようなことがわかっています。
 (1) 糖尿病の人は歯周病の罹患率が高い 。
 (2) 糖尿病の人は歯周病がより重症化しやすい。
 (3) 糖尿病の罹病期間が長い人ほど、歯周病の罹患率が高い。
 (4) 血糖コントロールがよくない人は歯周病がより重症化しやすい。
 (5) 歯周病が重症化している人ほど血糖コントロールがよくない。
 (6) 歯周病の人は糖尿病の罹患率が高い。
 (7) 歯周病の人は糖尿病でないとしても糖尿病予備軍であることが多い。
 (8) 糖尿病の人が歯周病をしっかり治療すると、HbA1C(ヘモグロビン・エー     ワンシー:1〜2ヶ月前の血糖状態)が改善する。


5.糖尿病で歯周病が増える理由
○口の中が乾燥する    高血糖状態では、浸透圧の関係で尿がたくさん出ます。その結果、体内の水分が減少するとともに唾液の分泌量が減り、口渇(喉や口の渇き)という症状が現れます。唾液には食べ物を消化する働きの他に、口の中を浄化し組織を修復する働きもあり、歯周病を防ぐように作用しています。高血糖のために口の中が乾燥している時は、その作用が低下していて、歯周病の原因菌が繁殖しやすく、歯周病が進行しやすい環境になっていると考えられます。 
○唾液などの糖分濃度が高くなる
   口の中は唾液や歯肉からの滲出液で常に潤っています。これらの液体は、もともとは血液から作られるものです。高血糖下では、唾液や滲出液の糖分の濃度が高くなります。この状態は、歯周病の原因菌の繁殖に適していると考えられます。
○細菌に対する抵抗力が低下する    高血糖状態では、細菌を貪食する好中球(白血球の中で最も数が多い顆粒球)の働きが低下することがわかっています。つまり、感染防御機構が十分に機能しなくなるということです。そのために様々な感染症にかかりやすくなり、感染症である歯周病も当然、起こりやすくなります。
○組織の修復力が低下する
   プラーク(歯垢:細菌が繁殖した物)が形成された歯周組織では、細菌によって引き起こされる組織の破壊と、それを何とか修復しようとする働きのせめぎあいが続いています。高血糖状態では、組織を修復する働きが低下します。

6.歯周病チェック(厚生労働省 e-ヘルスネット)
 以下のような症状があったら、歯周病の可能性があります。
   ・ 朝起きたときに、口の中がネバネバする。
   ・ 歯みがきのときに出血する。
   ・ 硬いものが噛みにくい。
   ・ 口臭が気になる。
   ・ 歯肉がときどき腫れる。
   ・ 歯肉が下がって、歯と歯の間にすきまができてきた。
   ・ 歯がグラグラする。

おわりに
 以上、歯周病についてお話をさせて頂きました。糖尿病を持っている患者さんは勿論のこと、そうでない方でも、食事や運動などの生活習慣の改善が重要な鍵であると考えられます。普段から、生活習慣に注意して頂いた上で、鍼治療により体調を良好に維持すれば安心です(研究室参照)。
 鍼治療は体を健康に保つ手段として最適な治療法です。東洋医学研究所?グループの全身調整を目的とした鍼治療(生体制御療法)をお勧めいたします。

引用文献
厚生労働省 メタボリック症候群が気になる方のための健康情報サイト.
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-001.html
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