
平滑筋と鍼灸医学2 東洋医学研究所?グループ福田鍼灸院 院長 福田裕康
そうしますと、図3のような記録をとることができます。つまり、ラットの胃では周期的に収縮・弛緩を繰り返す自動運動をしていることがわかります。上へ向かうとギュッと縮まる収縮で、下へ向かうと広がる弛緩です。
(図3)
そこに、自律神経などの神経からの影響を検討するために電気刺激を行います。電気刺激というのは刺激の時間などを変えて刺激すると筋肉の間まできている神経だけを興奮させることができます。神経を興奮させると、そこからいろいろな物質が放出され、胃でいえば、運動が大きくなったり小さくなったりします。下の3つの図の横棒の下線のところが電気刺激をしているところです(図4)。ここでは3つの図とも、もともとあった自動運動が小さくなっているのがわかります。この原理を応用すると筋肉を支配している神経(自律神経を含む)の様子がみえます。この3つの図は、左から(A)普通のラット、(B)糖尿病ラット、(C)鍼治療をした糖尿病ラットからとった図です。3つともそれぞれ違った反応がみてとれます。つまり、糖尿病になると胃運動に対する神経の影響が変わり、また鍼治療することによっても変化することがみてとれます。
(図4)
この図をもとにいろいろな神経物質の阻害剤や促進剤を用いてなぜこのような違いがあるかを検討しました。結論からいいますと、鍼治療でもっとも変わったのは神経から放出されるアセチルコリンによる反応であり、副交感神経の増強が示唆される結果となりました。
副交感神経の持続的な増強が与える影響については、まだわかっていないことばかりですが、逆に交感神経の持続的な増強は血流を悪くしたり、免疫によって身体を攻撃するなどの悪影響が報告されているので、副交感神経の増強はいい方向に働く可能性が秘められています。ひいては予防や健康維持に重要な要素となりえることも考えられます。
平滑筋と鍼灸との関係は多種の臓器や疾患にまたがるため、まだまだ研究としては緒についたばかりです。
非常に広範囲な分野ですが、非常におもしろい分野であるとともに、鍼灸診療とは切っても切れない縁があります。このような研究の実績のもとに鍼灸診療を行えたら、よりよく最適な治療の近道になりえると確信しています。少しでも興味をもっていただけたでしょうか?