老いを知り長寿を楽しむ 平成26年7月1日号 東洋医学研究所?グループ 栄鍼灸院 院長 石神 龍代
2014-07-01 21:45
東洋医学研究所
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はじめに
現在の日本は、4人に1人が65歳以上という超高齢社会です。
この世に生を受けて、天寿を全うするということは誰しも願うところです。
時の流れは止めることはできなく、老いは必ずやってきます。避けて通れない「老い」を知り「長寿」を楽しんで過ごすことができたならどんなに幸せでしょう。
今回は、NHKスペシャル 「人体:ミクロの大冒険」から学んだ内容を紹介させていただき、「長寿」を楽しむ方法を考えてみたいと思います。

私たちの一生
私たちの始まりはたった1個の細胞、体内で最も大きな細胞である「卵子」と体内で最も小さい細胞である「精子」との合体により誕生する「受精卵」、その「受精卵」が分裂を繰り返し60兆個の細胞となり、変化をし続けてゆくのが私たちの一生です(私たちの身体は60兆個200種類の細胞からできており、すべての細胞の核には遺伝子という台本があります)。
学び成長する時、私たちの内側では細胞たちが変化して学習や経験を記憶してゆきます。やがて成熟してゆく心と身体、愛し慈しむ感情も細胞から湧き出していることがわかってきました。人間は動物と違って細胞を自ら変えることもでき、努力次第でなりたい自分になれるのです。

老いの正体は何か
これまで老いとは歳月と共に全身が漫然と衰えていくことだと考えられてきました。ところが、最新の研究によって、身体の衰えの根底には免疫細胞があるという驚きの事実が明らかになってきました。

※免疫細胞とは病原体と戦って体を守ってくれる力強い細胞です
免疫細胞は背骨の骨髄の中のニッチといわれる特別な場所で作られます。その数は1日1千億以上。一口に免疫細胞といっても種類は様々です。
骨髄の血管にはミクロの通り穴があり、血管に入った免疫細胞たちは見事なチームワークで外敵と戦います。
まず、最初に働くのは偵察専門の免疫細胞(樹状細胞)です。異物をみつけると素早くキャッチ、すかさず司令塔であるT細胞のもとへ運んでゆきます。T細胞はその異物が攻撃の対象かどうかを判断し、サイトカインを出して攻撃の命令を伝えます。
命令を受けて働き始めるのがマクロファージ。病原体を次々と食べてゆく。T細胞を中心としたチームプレイ。この働きなくして私たちの健康を保つことはできないのです。
免疫細胞の働き振りには年齢によって大きな違いがあります。免疫細胞(好中球)は病原体を見つけますが、20代ではすぐに見つけてかけよっていきますが、60代ではほとんど動きません(病原体の居場所がわからなくなっています)。

免疫細胞と長寿との密接な関係
老化研究者のルカ・ディアーナ博士(サッサリ大学)が、イタリア・サルデーニャ島(長寿の人の割合が世界一高い)の高齢者3000人の血液を調べた結果、免疫細胞が非常に効果的に働き続けていて、20代の動きを保っていることがわかりました。
 イギリス・バーミンガム大学の報告によりますと、運動を行う前の免疫細胞は1カ所からあまり動きませんが、5分間の運動後(全力で自転車をこいだ後)は、活発に動き出しました。運動によって筋肉から分泌された物質が免疫細胞を活発にさせたと考えられています。幸せで健康な老後を望んでいるならば、免疫細胞を改善するために日頃から運動を心がけるべきでしょう。
これまでも健康維持には欠かせないといわれてきた運動。実は免疫細胞に対して働きかけ、健康を促進していたことが確認されたのです。免疫細胞の働きを若く保つことが老化研究の新しいターゲットなのです。

免疫の暴走が引き起こす老いと病
私たちの体を病原体から守ってくれる免疫細胞たち。ところが今この免疫細胞の暴走こそが老いや病を引き起こす大きな要因だという衝撃の事実が明らかになってきています。
脳出血、動脈硬化、心筋梗塞、慢性肝炎、骨粗鬆症。こうした年齢とともに増える病気のほとんどに免疫細胞が深く関わっているのです。
体を守るはずの細胞が逆に体を壊してゆく。その決定的な映像を捉えたのは、特殊な顕微鏡で生きたままの体内を観察し、細胞の動く姿を見ることができるバイオイメージングという最新の技術です。
世界で初めて捉えられた肝臓内での免疫細胞の姿です。本来は病原体の侵入に備えてゆっくりとパトロールしていますが、こちらの肝臓では大量のマクロファージが本来守るべき細胞に群がり攻撃を加えているのです。いわば、免疫細胞の暴走です。この状態が続くと慢性肝炎になってしまいます。
また、病原体がいないのに血管の壁に居座っているマクロファージによって血小板が呼び集められてきて、血管がどんどん狭くなっていって、ついに血流が止まってしまいました。必要もないのに血流を止めてしまうこの状態がやがて動脈硬化につながります(動脈硬化とは昔は脂肪が血管につまるのだと思われていました)。
免疫細胞の暴走によってサイトカインがところかまわずまき散らされると、体中が免疫細胞の攻撃対象となってしまいます。この状態こそ全身が老いてゆく最大の要因です。

※免疫細胞の暴走そのものを止めることはできるのでしょうか
免疫細胞はネットワークで、その司令塔がT細胞です。実はT細胞そのものが判断力を失う、性質を変化させてしまうといったことが知られています。
ですからT細胞がちょっと間違った指揮をしてしまうと、本当は病原体をやっつければよかったのに、それが自分に向いてしまったりします。
免疫細胞たちのリーダーT細胞はなぜ暴走してしまうのでしょうか?
実はそのヒントはT細胞が一人前の司令塔になるための道のりに隠されています。その道のりをたどるために、大人ではなく、子どもの体をみてゆきましょう。
子どもの心臓の真上には小さな臓器、胸腺があります。この胸腺はT細胞を作る上で欠かすことはできません。胸腺の中はT細胞だらけ。実は骨髄で作られたT細胞たちは司令塔として働く前に、ここにいったん集められます。
T細胞の表面をよくみると小さな突起が並んでいます。体の中で異物の正体を見極めるためのアンテナです。このアンテナの形に異物がぴったりはまると病原体と判定されるのです。このアンテナはT細胞ごとに形が違います。その種類は数百万以上。あらゆる病原体に対応する備えです。
胸腺の壁に触れたT細胞が次々と死んでゆきます。実はこれ、胸腺の細胞がT細胞のアンテナの性能を瞬時にチェックしているのです。アンテナの性能が少しでも悪いと判断すると、そのT細胞ごと壊してしまうのです。生き残るT細胞はわずか5%以下、この厳しい選別を乗り越えて、はじめてT細胞は司令塔として実践に向うのです。
ところがT細胞を一人前に育て上げる胸腺は思春期を過ぎると殆どなくなってしまうのです。胸腺がなくなると何が起きるのでしょうか?
血液中のT細胞は、20代と70代では、数はあまり変わりませんが、正常な判断力を持ったT細胞だけに絞ってみると、70代は1割程度に激減。つまり、胸腺がなくなって、新しいT細胞の補充が不可能になると、古くなったT細胞が次第に判断力を失ってゆくのです。
細胞たちがしっかりと働くのは、生まれてからせいぜい20代まで、それが大原則です。T細胞を作っては壊すという贅沢が許されるのは思春期までで、後はやりくりするしかありません。思春期以降は細胞からの十分なケアは期待できないのです。これこそ細胞が私たちに強いている宿命なのです。


宿命を超えるiPS細胞の力
ところがその宿命は大きな転換を迎えています。その最前線というべき研究が京都大学で行われています。去年ある研究成果が発表されました。
人の手で作り出された人工T細胞です。大人になるとT細胞は殆ど作られなくなるという宿命。人工T細胞はこの宿命を乗り越える可能性を秘めているのです。可能にしたのはあのiPS細胞です。新鮮なT細胞を無駄なく大量に生み出し、働いてもらう。いわば、細胞が見捨てた私たちの余生を人為的に救う道が開かれたのです。
京都大学iPS細胞研究所所長山中伸弥教授は「これまでは糖尿病の方に対してはどうやって血糖値を下げるか、動脈硬化の方にはどうやって血中のコレステロールを下げるかというように、いわば個々の治療といいますか、対症療法が中心だったのですが、そうじゃなくて根本にある免疫の異常を、一番大本を叩くことによって、たくさんの病気をいっぺんに治せるのではないか、同じ薬が効くのではないかと、そういうことを夢みて研究を進めています。
60兆個の細胞がつくる「生命」。細胞1個1個が決してロボットの部品のように物質的なものではなくて、1個1個が生きていて、互いにコミュニケーションをとりながら、それが少しでも破綻してしまうと病気になり、私たちに必ず死が訪れます。
私たちが生きていることはある意味奇跡に近い状態だなあと本当にそう思います。細胞の力はすごいです。細胞を見ていると、こんなにすごいものはやはり神様にしか創れないなあと思います。」と話しておられました。

おわりに
番組は「始まりはたった1個の細胞(受精卵)。そこから60兆の細胞が繰り広げる長い旅。私たちの生命をどう輝かせるのか、細胞はそれを私たちに委ねています。」と結んでいました。  
今回学んだことから、私たちの健康を守ってくれる免疫細胞を、いかに活性化させるか、いかに誤作動を起こさせないようにするかが、長寿を楽しむ鍵であり、その方法として、人間性(生かされていることへの感謝の心、他の人への思いやりの心)を高め、正しい生活習慣(食事、睡眠、運動)を励行することが大切だと思います。
それに加えて、東洋医学研究所?黒野保三所長の長年の基礎・臨床研究によって、免疫細胞の活性化が明らかになっている鍼治療を定期的に受療されることをお勧めいたします。


参考・引用文献
・NHKスペシャル 「人体:ミクロの大冒険」.2014.   
・村上和雄:生命の暗号.サンマーク出版.1997.
・黒野保三:長生き健康「鍼」.現代書院.2008.
・黒野保三:鍼刺激のヒト免疫反応系に与える影響(?〜?).全日本鍼灸学会雑誌.1980〜1986.
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