平滑筋と鍼灸医学4 -胃の働きを考える- 東洋医学研究所?グループ  福田鍼灸院 院長  福田 裕康
2013-03-01 08:07
東洋医学研究所
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平成25年3月1日号


胃の本当の役目は?
 食べ物を消化する場所はどこですか?と聞かれた時、まず思い出すのは胃ではないでしょうか。でも、胃を手術でとってしまっても、元気に生活してみえる方もいます。本当の胃の働きとは何でしょうか?
 食べ物を食べますと口から食道を通って胃に到達します。胃に食べ物が入ると、平滑筋と呼ばれる胃の壁がゆるみ、胃が広がり、次から次へと送られてくる食べ物を貯留します。この胃の広がりを「受け入れ弛緩」や「受容性弛緩」といいます。そして、満腹になったという信号が脳に伝わるまで貯蔵されつづけるわけです。この食べ物を貯蔵するということが胃の本来の役割ということになります。
 では、胃は食べ物を貯蔵するだけだからなくてもいいかというと、そういうわけではなく、もちろん消化のために大事な働きをしています。直接、体内で消化吸収をする場所は胃に続く小腸ですが、小腸は一度にたくさんの食べ物を送りこまれてしまうと、小腸の消化吸収には限度があるため、それを超えると下痢をおこし、すぐさま排除しようとする機能が働いてしまうのです。つまり、胃をとってしまったら一回の食事量は少なくし、回数を増やして消化吸収を助けないと栄養不足になってしまいます。胃は一日に必要な量の食事を、より少ない回数でとれるように働いているのです。
 少し視点を変えてみましょう。胃は体の外でしょうか?内でしょうか?口から肛門まではつながった一本の管なので胃は実は体の外になるわけです。そして、一本の管に食べ物を貯蔵しておくには、出口を細くせばめて、閉じておく必要があります。そして、必要に応じて、わずかに開いて少しずつ小腸に食べ物を送ります。こうして、わずかに開いた出口を通過するためには、食べ物は液状や泥状でなければなりません。

胃の運動はいつも同じ?
 食事をすると胃が運動を始めます。そして、胃の場所によって違う運動をします。食べ物が入ってくるとたくさんの食べ物をためやすいように、胃の上の方はゆるんで開きます。そうしないと胃の中の圧力があがってしまい少ししか食べられないことになります。それと同時に胃の下の方では胃の中で食物を細かくするために一定のリズムで胃が収縮します。また、胃には様々な素晴らしい機能があることが知られていますが、胃から排出される内容物の大きさを選別する機能があります。胃の出口から小腸に出ていくことができる固形物の大きさは2ミリ程度です。それ以上大きなものはまた胃の上の方に押し戻され小さくなるまで排出されません。
  一方、液体は固形物とは違いどのような状態でも胃を通過して小腸に排出されます。ここに、生活のため大きなヒントがあります。つまり、液体は固体と違っていつ摂取しても胃の排出には影響がないので、必要な時はいつでも摂取してもいいことになります。
 では、胃の中で残ってしまったものは、その後どうなってしまうのでしょうか。実はそこに胃の運動のおもしろさがあったのです。先ほど食事をすると胃が動き始めて消化を助けるように書きましたが、それでは空腹の時、胃は何をしているのでしょうか?
 日本では、1960年代にそのきっかけとなる論文が群馬大学の先生らによって執筆されておりました。そこには、空腹時の方が規則正しい収縮で食後よりも大きな収縮がおこっていることが著されているのです。それも1時間30分周期で食後の収縮の力の3から4倍の大きさでした。そして、もっと驚いたことに、空腹時の収縮は食後に広がった胃の上の方も含めた胃全体で収縮が起こっていたのです。この力強い収縮には意味があり、胃で残ったカスを一気に掃除してしまうことができたのです。この空腹の時間が胃の健康にとって重要だったのです。しかしながら、1日3食食べると完全な空腹になることが少なく、夜寝ている時にしか空腹がない人が増えてきました。それにもまして、厚生労働省の発表による、午後9時以降に食事をしている人は20歳代の女性で20%以上、同男性で30%以上、30歳の女性が10%以上、同男性が35%以上いることを考えますと、夜中に完全な空腹状態を作れない人が常態化していることが解ります。ご飯1杯食べると消化するのに2時間30分かかることを考えるといつ食事をしたらいいのかがおのずと解るはずです。
 このような胃にとっていい生活をすることが快適な生活となる一助になるはずですが、それでもうまくいかない人もいます。胃の運動は胃に固有に持っている神経とそれをもっと中枢から制御する自律神経とで調整されています。特に自律神経の中の副交感神経は胃の運動にとって大事な神経ですが、これは命令するだけではなく神経の数からすると逆向きに働き、胃の情報を中枢に伝える能力を備えています。
 胃の運動に対する鍼治療の効果も種々報告されるようになりましたが、実際に基礎実験において副交感神経の働きにより胃の運動がよくなることも前回のコラムで紹介しました。
  このように、胃を中心とした平滑筋と鍼灸については、まだまだ解らないことばかりです。しかし、生活の質をあげるのに避けては通れないものばかりです。
  平滑筋に興味をもっていただけるように、これからも紹介させて頂きます。
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