経穴について その6  東洋医学研究所?グループ井島鍼灸院 院長  井島 晴彦
2010-04-01 21:13
東洋医学研究所
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平成22年4月1日号


今回は循環器疾患に使用される経穴について紹介させて頂きます。
 東洋医学的な治療に経穴は切っても切れないものです。私は黒野保三先生のご指導のもと、経穴について文献から調べさせて頂きました。
 前回のコラムでは、消化器疾患の時に使用される経穴について、その名前がどのような理由でつけられたか、漢字のなりたちから読み取ること(穴名考)により紹介させて頂きました。
 今回は、狭心症、低血圧、高血圧、心悸亢進、貧血などの循環器疾患によく使用される経穴として、ダン中穴、百会穴、足三里穴、天柱穴、内関穴について、文献を参考に紹介させて頂きたいと思います。 


循環器疾患に使用される経穴はたくさん有りますが、その中からどうして、ダン中穴、百会穴、足三里穴、天柱穴、内関穴を選んだのかを説明させて頂きます。
 病気の治療に使用する経穴を選ぶ根拠に、古典文献があります。いつも黒野先生から教えて頂いているように、古典文献の内容ががすべて正しいわけではないので、実証医学的な証明が必要です。
そこで、黒野先生の発案により、各病気に対してよく効くといわれている経穴のうちから古典文献や穴名考などを根拠に数穴優先順位をつける作業をさせて頂きました。
 方法は、中国や日本の代表的な鍼灸に関する古典文献50冊あまりを調査・分析して著された「鍼灸医学ー経絡経穴の近代的研究ー」(竹之内診佐夫・濱添圀弘著)に掲載されているすべての主治症と経穴との関係をコンピューター(エクセル使用)に入力し、主治症別(590疾患・症状)、科目別(21科目)、経穴別(357穴 のべ経穴数4715穴)に抽出・集計できるようにしました。
 その結果から、循環器疾患について抽出すると、主治症が19疾患あり、経穴が166穴掲載されていました。その中で多く使用されている経穴は、百会穴6回、天柱穴6回、足三里穴5回、身柱穴5回、人迎穴5回、ゲキ門穴4回、厥陰兪穴4回、内関穴4回、膈兪穴4回、肩井穴4回、湧泉穴4回、神門穴4回、天井穴4回でした。
 また、ダン中穴は穴名考から心包にあたる経穴とされ、心疾患に用いられるため重要と考えられました。
 そこでさらに、回数の多い経穴を1穴づつ細かく検証したうえで、古典文献からの循環器疾患の代表穴としてダン中穴、百会穴、足三里穴、天柱穴、身中穴、内関穴、ゲキ門穴、神門穴などがありました。
その中で今回は、ダン中穴、百会穴、足三里穴、天柱穴、内関穴について紹介させて頂きます。


穴名に使われる漢字に意味があるダン中穴を紹介させて頂きます。
位 置 両乳の間の中央、第4肋間の中央胸骨中に取る。 
穴名考 ダンは月(にくづき)と亶の合字で、亶は亠は屋根、回は周囲のかこい、日は太陽、一は地、太陽が地平線上に現れる=赤い太陽で、心を表す。心の周囲を囲み、上を屋根でおおう、心の周囲をおおう=心包絡、いわゆるダンは心包のことである。中は一致する。したがって心包のある所に一致する穴の意である。心包経の募穴の意である。
主治症 精神神経症をつかさどる。心疾患、肺疾患、食道痙攣、乳腺炎、乳汁不足、胸膜炎、肋間神経痛、気の変動に応用する。

 
 


循環器疾患にもよく使われる百会穴を紹介させて頂きます。
位 置 頭頂部、 両耳を前に折り、耳尖の当たるところより直登し、督脈に交わるところに取る。 
穴名考 百は、10の10倍、衆多。会は、合う、集まる。したがって、百会は、衆多の脈が集まるところ。 また、この部は頭の中央であり、脳=髄海のあるところ、脳に気血の出入りするところの穴の意である。
主治症 高血圧、脳溢血、脳充血、脳貧血、頭痛など脳疾患。ノイローゼ、不眠症など精神神経症。心悸亢進、心肥大など心疾患。
その他、五臓六腑の調整など、いわゆる「百病皆治す」というように、応用範囲の広い穴である。
 

掲載回数の多かった足三里穴を紹介させて頂きます。
位 置 脛骨粗面の外下方、脛骨体の上部で、外側顆に移行する部の骨の陥凹部より、外側に前脛骨筋を一筋隔てたところで、前脛骨筋と長指伸筋の間に取る。 
穴名考 三は、数字の三、交わる、組合せる、参る。里は、村、さと、街、道のり。
したがって、気血の多く集まるところの意で、反応の強い穴・重要な穴を表す。足関節から下巨虚(小腸の合)、上巨虚(大腸の合)、足三里(胃の合)と、三番目の重要な穴の意である。
主治症 諸臓の慢性病および消化器疾患を主る。半身不随、中風、衂血、脳充血、高血圧、貧血、産後の血暈その他万病を治すという。

経穴の位置からその名前がついた天柱穴を紹介させて頂きます。
位 置 後頭髪際中央陥凹部にア門穴を取り、その外一寸三分に取る。
穴名考 天は、大空、上、高い。柱ははしら、支える、幹。したがって天柱は天部=頭部を支える柱の付け根にある穴の意である。
主治症 脳充血、脳貧血、高血圧、不眠症、その他脳疾患。狭心症、心悸亢進症、特に衂血止まらず、鼻閉塞に特効がある。
 

経穴の位置からその名前がついた内関穴を紹介させて頂きます。
位 置 腕関節前面中央の橈側、橈側手根屈筋腱と、長掌筋腱の間に大陵穴を取り、その上二寸に取る。
穴名考 内はうち、内側、裏。関はかんぬき、閉ざす、貫く。したがって、内関は内は内側、関は閉ざす。橈骨と尺骨の骨間で、両骨相接して、骨間が閉ざされている部の内側(前面)にあるものを内関という。
主治症 心臓病をつかさどる、脳充血、高血圧、貧血、精神神経症、便秘、痔疾など
 

経穴名の由来を知って鍼灸診療に役立てましょう。
 今回は、経穴名の由来を知ることで鍼灸診療の役に立つことを、循環器疾患の場合を例にあげて紹介させて頂きました。
 鍼灸治療をさせて頂く場合でも、経穴名のもつ意味を正しく理解し、さらに、位置・形・深さを知り、豊富な知識に基づいて、適度な刺激を加えることは効果をあげるために非常に大切なことだと考えます。
 そこで東洋医学研究所?グループの先生方は、黒野保三先生のご指導のもと学・術・道の練磨につとめております。安心して鍼治療を受けてください。
 次回の私のコラム担当のときは、泌尿器疾患に使用される経穴を紹介させて頂きたいと考えております。是非、楽しみにしてください。

※「高血圧に対する足三里穴刺鍼の有効性について -封筒法による臨床比較試験-」全日本鍼灸会雑誌50巻2号.185-189.2000.


文 献 
黒野保三.鍼灸医学概論〈改訂増補〉.エフエー出版.1996.
黒野保三.臨床鍼灸医学.エフエー出版.2001.
竹之内診佐夫.濱添圀弘.鍼灸医学.南山堂.1977.
日本経穴委員会.標準経穴学.医歯薬出版株式会社.1989.
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