汗腺の発達について 東洋医学研究所?グループ  二葉鍼灸療院 院長 角田 洋平 平成31年3月1日号
2019-03-01 07:17
東洋医学研究所
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はじめに
思い起こすこと数か月前、昨年は様々な異常気象に見舞われた一年でした。中でも私自身初めての経験で、記憶に残っているのが新潟県で観測史上初の気温40℃超えのニュースでした。テレビなどでたまに目にしますが、いざ自分の住んでいる所が摂氏40℃を超えた世界になると危機的なものを感じます。大人の私ですらそうなのですから、小さいお子さんのいる家庭では尚更の事だと思います。真夏の日中、外から聞こえる市役所の熱中症の注意勧告の放送。昔は夏休みといえば昼ご飯も食べるのを忘れて夕方暗くなるまで虫取りだの何だのと遊んだものですが、このような気候ですと真夏の昼間に冷房の効いた部屋から出づらいといった状況が出来上がっていると言えます。
昨年の9月1日の朝日新聞デジタル版では、「夏場に冷房の効いた部屋から出ないのは暑い環境における汗腺発達の機会が奪われているのではないか」と懸念していました。そう、危険な程の暑さが故に元々体に備わってる"汗をかいて体を冷やす"という機能の発達を阻害している可能性があるのです。

汗は優秀な放熱装置
昨年インターネットで見かけた記事で『キッチンペーパーだけで約10分で常温のビールをキンキンに冷やすことができる方法』というのがありました。濡れたキッチンペーパーをビール缶にぐるぐる巻き付け乾燥している冷蔵庫に入れておくことで、ペーパーに含まれている水分が蒸発すると一緒にビール缶の熱も奪われるといった、汗が乾く際に熱を奪う気化熱の作用を利用したものです。記事によると缶ビール1本冷やすのに4時間くらいかかっていたのが、10分程で飲み頃の美味しく冷えたビールになるようです。それと同様に人間の汗の気化熱による身体の冷却機能も暑熱環境適応という面で大変優れているのです。
こうして全身に汗をかくのは実は人間くらいのもので、他の動物は犬を見てるとよく分かるように、ハッハッと小刻みに浅い呼吸を繰り返して(浅速呼吸)上がった体温を下げます。この呼吸とわずかばかりの汗腺が体の一部に備わっているのみです。多くの動物はケガや直射日光、寒冷による体温低下を防ぐために体毛を発達させた一方で、ヒトの体毛は退化しほとんどが非常に細いうぶ毛になり、代わりに汗腺が発達しました。その結果、体温の上昇を発汗で効率よく緩和出来た事によって長時間の歩行・走行が可能になりました。歩行や走る事で42・195?も一度に移動出来るのは人間くらいのもので、元気な人は喜んでお金を払ってそれをこなします。他の動物がいくら真似しようとしても、あっという間に熱処理できず熱中症で倒れてしまいます。実際昔の人間の狩りは獲物を追い込んで追い込んで熱中症で動けなくさせてから仕留めていたようで、そのおかげで危険な目に遭う事なく大型の獲物も仕留める事が出来たようです。こうした長距離の移動能力は人類がアフリカ大陸で誕生し、瞬く間に各地に散らばり繁栄できた要因の一つともいえます。

働く汗線の数が増えるのは2歳半まで
人間が進化の中で獲得した叡智ともいえる発汗機能ですが、温熱刺激により汗腺能力は起動し、当然ながら涼しい・寒いといった環境では放熱は命取りになるためあまり機能しません。汗腺の機能が出来上がるのが2歳半ごろといわれています。気温の高い地域の住民ほど分泌能力を持つ汗腺(能動汗腺)が多いのですが、成長してから熱帯に移住しても能動汗腺の数は増えません。暑い環境で乳幼児期を過ごせば、働く汗腺の数は増加することになります。その能動化は2歳半までに完了するので、暑い環境に適応する意味で夏に汗をかくことが大事なのです。 しかし昨今の猛暑はそういった意味で汗腺発達の機会を奪っていると言えます。 

汗腺の能力をあげていく
しかし気温が40度近い中に乳幼児を放り出せともいえません。もはや命に関わりますので、真夏は冷房をしっかり使って熱中症対策をしなければなりません。ただ地球の温暖化が進む中で、ある程度は暑さに耐えれる身体を作っていきたいものです。ちょうどこれから寒さもほころび、外出しやすくなってきます。まだ暑さが厳しくならないうちにお子さんと外出したり外で運動させてたっぷり汗をかかせるのも一つの手です。先ほど汗腺の数の増加は2歳半までに完了するといいましたが、汗腺一つ一つの能力は成長と共に発達していきます。学校での登下校や運動、帰ってからしっかりお風呂につかる事でその機能は伸びていき、汗をかく夏の準備はされていきます。

おわりに
熱中症という言葉が定着して久しいです。稀有な能力として得た発汗機能を保持すると共に、まだちょっと先ですがこれから来る夏には汗で排出される水分・塩分補給等に気を付けて下さい。また熱中症予防という観点から言えば睡眠・疲労をためないようにするなど普段の体調管理も重要です。
これからの極端な気候を乗り切るために是非とも鍼灸治療をお薦め致します。

参考文献
・ダニエル・E・リーバーマン.人体六〇〇万年史─科学が明かす進化・健康・疾病(上).ハヤカワノンフィクション文庫.2017.
・塩原哲夫.アトピー性皮膚炎と発汗.別冊医学のあゆみ アトピー性皮膚炎.2009.
・汗をかく力は25歳までに? エアコンは子どもに悪いのか
https://www.asahi.com/articles/ASL8Y42N0L8YUBQU00F.html?iref=com_apitop
・キッチンペーパーだけで!約10分で常温のビールをキンキンに冷やすことができる方法  https://togetter.com/li/1300297
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